三寒四温という言葉があります。冬から春へ、あるいは夏から秋へ移る時期に、寒い日と暖かい日が繰り返し訪れること。この気温の揺らぎは、私たちの体に少なからず影響を与えます。なんとなくだるい、気分が落ち着かない、睡眠が浅い——そんな「季節の変わり目不調」を感じたことがある方は多いのではないでしょうか。

日本には古来より、この季節の移ろいに体を合わせていくための生活の知恵が積み重ねられてきました。それらは難しい哲学ではなく、食事・睡眠・衣服・生活習慣というごく身近な領域に宿っています。今日はその知恵のいくつかを、現代の暮らしの文脈でご紹介します。

「衣替え」の本来の意味

衣替えは単に季節に合わせた服に替えることではありませんでした。江戸時代には「更衣(こうい)」と呼ばれ、宮中行事として定められた日に衣服を替えることで、体を季節に調和させるという意味がありました。服を替えることは、気持ちを替えることでもあったのです。

現代でも、衣替えをただの整理整頓として行うのではなく、「これから始まる季節に、どう自分を整えたいか」と問いかけながら行ってみてください。不要なものを手放し、季節にふさわしいものだけに囲まれる空間を作ることは、心の整理にも直結します。

「旬のものを食べ、旬の衣をまとい、旬の空気を吸う。それが日本人の季節との向き合い方だった。」

旬の食材が体を整える

季節の変わり目に体が揺らぐのは、私たちの体が本能的に「移行」を感じているからでもあります。そのタイミングで旬の食材を取り入れることは、体がその変化に対応するための自然なサポートになります。

春なら、ふきのとう、菜の花、たけのこ。苦みや香りが強い春の山菜は、冬の間に蓄積したものをリセットするような役割を担ってきたと、昔の人たちは感覚的に知っていたのかもしれません。秋なら、根菜類や茸が豊富に出回ります。大地のエネルギーを蓄えた食材を食べることで、体を冬に向けて落ち着かせていく。そういう感覚です。

木の台の上に並ぶ新鮮なハーブ
旬のハーブや野菜には、その季節ならではの香りと生命力がある。

「土用」の知恵——季節の間を丁寧に

日本の暦には「土用(どよう)」という概念があります。四季それぞれの変わり目の約18日間、春夏秋冬の合計4回訪れます。この期間は「土の気が盛んになる」とされ、新しいことを始めたり、身を動かしすぎたりすることを控えるのが吉とされてきました。

土用の考え方は、現代的に解釈すると「移行期には無理をしない」というシンプルなメッセージとして受け取れます。季節の変わり目は体が変化に対応しようとしているとき。そのときに無理をするのではなく、意識して「ゆっくりする時間」を作ることが、長い目で見ると体のバランスを保つことにつながります。

実践:土用期間の過ごし方

・睡眠を普段より少し早めにとる
・新しいプロジェクトや大きな決断はなるべく避ける
・消化の良い食事を心がける
・普段よりゆっくり歩く、散歩の時間を増やす

季節の移ろいを「何かを変えるチャンス」ではなく、「体を休ませ、次の季節を迎える準備の期間」として位置づける。この視点の転換だけで、季節の変わり目の過ごし方はずいぶん変わってくるはずです。

日本の暮らしの知恵は、いつも「自然の流れに逆らわないこと」を教えています。それは諦めではなく、しなやかな強さです。季節が変わるたびに、少し立ち止まり、自分の体と心に耳を傾けてみましょう。

中村 健太

ライフスタイルコラムニスト

北海道出身、現在は長野県在住。自然豊かな環境での暮らしから得た知見を軸に、季節の変化に寄り添う生き方を提案。農作業と読書が日課。日本の地方文化と伝統工芸にも造詣が深い。

前の記事 朝の静けさを取り戻す:5分間のマインドフルネス習慣